SSブログ

◆ エネルギーは「正義」の問題ではない [  ☆ 原発・エネルギー]

環境・エネルギー問題はトレードオフである
池田 信夫
アゴラ研究所所長 学術博士
慶應義塾大学

2020.01.06
(http://agora-web.jp/archives/2043607.html )

米軍のイラク爆撃で、中東情勢が不安定になってきた。

ホルムズ海峡が封鎖されると原油供給の 80%が止まるが、日本のエネルギー供給はいまだにほとんどの原発が動かない「片肺」状態で大丈夫なのだろうか。


エネルギーは正義の問題ではない


今週からアゴラ経済塾「環境・エネルギー問題を経済的に考える」が始まる。

わざわざ「経済的に」と断ったのは、この種の問題は生命正義で論じられることが多いからだ。





かつて
・水俣病の時代には環境問題は生命の問題であり、
・チェルノブイリ事故のころ原子力は生命の問題だった
が、今はそうではない。

・地球温暖化は海面が何 cm上がるかという問題であり、
・福島第一原発事故では放射能で 1人の生命も失われなかった。


グレタ・トゥーンベリのように
「温室効果ガスを減らすことが至上命令で、どんな貧乏になってもいい」
という子供もいるが、普通の大人はそうではない。

それは環境影響と経済性のトレードオフという経済問題なのだ。


その答は理論的にはわかっている。

環境に及ぼす外部不経済を内部化し、それを合算した社会的コストを最小化するのだ。

エネルギーのような公共インフラには外部性が大きいため、通常の市場経済では解決できない。


この社会的コストを計算して最適化することが政府の役割だが、そのとき大事なのは延べ発電量で考えることだ。

たとえば
「原発事故が一度起こったら日本は終わりだから原発ゼロにすべきだ」
という小泉元首相の話は、1回の事故の被害だけを考えているが、
過去50年間の発電量に対する被害を考えると、図のように石炭が圧倒的に大きい





この図はチェルノブイリ事故の被害に対して、石炭と石油の採掘事故による死者を示したものだ。

温暖化や大気汚染の被害は入っていないが、それでも延べ発電量 (TWhあたりの死者は原子力が少ない。

原子力は 1回の事故の被害は大きいが、発電量も大きいので、TWh当たりでは相対的に安全なのだ。


日本のように原発を止めて石炭火力を動かすと、温暖化や大気汚染の健康被害は確実に増える。


では経済性はどうだろうか。

次の図は総合資源エネルギー調査会の計算した電源別のコスト(2015年)だが、原子力は約 10円で太陽光の半分以下である。





ここでも原発の延べ発電量が非常に大きいことがきいている。

たとえば福島第一原発事故の処理費用は約 20兆円だが、原発が 2010年以前と同じように運転できれば、40年間の総発電量 7TWhで割ったコストは 0.3円である。


電力会社へのただ乗りが終わる


再生可能エネルギー太陽光・風力は、設備ができれば燃料費はゼロだが、夜間や風のないときは使えない。

今はその不安定性電力会社がカバーしているが、今年2020年) 4月から始まる発送電分離では、送電網のコストを発電業者が負担しなければならない


この不安定性のコストがどれぐらいになるかは計算がむずかしいが、一つのモデルとして再エネと蓄電池だけで発送電を行うと想定してみよう。

これも資源エネルギー庁の計算だが、今と同じような安定性を確保して発送電するには 54~95円/kWhかかる。

これは今の電気料金の 3倍以上である。





つまりいま再エネが安いように見えるのは電力会社のインフラにただ乗りしているからにすぎない。

これまではそれに加えて固定価格買取 (FIT) で利益が保証されていたが、FITはまもなく終わる。

今後どうなるかは不確定な要因が多いが、間違いなくいえるのは、1種類のエネルギーですべてまかなうことはできないということだ。

電力は一次エネルギーの 25%にすぎないので、再エネ 100%にしても CO2排出はゼロにならない。


特に今年のように中東情勢が不安定になってくると、石油や天然ガスへの依存度は低くしなければならない。

他方で CO2を考えると、石炭も増やせない。

ベースロードは原子力で、ピークロードは再エネでという組み合わせになるだろう。


以上は一つの例題だが、イデオロギーや正義感で一つのエネルギーだけに依存することは危険である。

非化石燃料を増やしながらエネルギーコストを増やさない、多様なポートフォリオが必要である。



nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。