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◆ 第十章 ◇ 分断された国家 [  ❒ 病むアメリカ、滅びゆく西洋]


METALLICA ~ For Whom The Bell Tolls ―誰がために鐘は鳴る―  (1984)


パトリック・J・ブキャナン著
宮崎哲弥監訳
病むアメリカ、滅びゆく西洋

2002年12月5日 成甲書房



第十章 分断された国家


   「あんなにいい国だったのに。いったいどうなっちまったんだ?」
      ―― ジャック・ニコルソン
         『イージー・ライダー』 1969年


   世界はすばらしいところで、これを守るためなら戦うだけの価値がある
      ―― アーネスト・ヘミングウェイ 
         『誰がために鐘は鳴る』 1940年


国家や文明の滅びようはさまざまだ。

1453年の東ローマのように外敵に侵略・大虐殺される国もあれば、ローマの軍門に降ったギリシャ都市国家、プロシアの属領となったドイツの各公国のように、大国に併合される場合もある。

あるいはユーゴスラヴィア、ソ連、チェコスロヴァキアのように―― もともとうわべだけの偽国家だとの主張もあるが ――国家が分離分裂することもしばしばだ。


ある人物の出現により国家や文明そのものが大変革を遂げることもある―― 聖パトリックのアイルランド、マホメットのアラブのように。

「ヒューマニズムと新規範」が西洋にもこうした大変革をもたらすと、歴史家クリストファー・ドーソンは 70年前すでに看破していた ――


一つの文明は数世紀に渡って同じ神を信仰し、同じ思想・道徳規範を保持し、同じ道を歩み続ける。

ところがひとたび大転換が訪れるや伝統の泉は枯れ、人々は新しい世界―― 従来の原理原則が色あせ、不適切で無意味に思える世界 ――に目覚める・・・

昨今のヨーロッパはこうした状態に入りつつあるように見える。


また、国家の人口が衰退し、文化に無関心な移住者に制圧されることもある。


「ローマは外からの異邦人の攻撃ではなく、国内の異邦人増殖によって征服された」とウィル・デュラントは指摘する。

「急増したゲルマン人はローマの伝統文化を理解できず、受容も伝播しなかった。

同じく急増した東方民族もローマ文化を破壊することしか頭になかった。

ローマ人は子を持たぬ安楽さのために文化を犠牲にした」


西洋文明は史上最も高度な文明であり、アメリカは―― 特に経済・科学技術・軍事力において ――世界一の先進国だ。

ライバルたる超大国は存在しない。

日米欧で世界の富、収入、生産能力の3分の2 を占める。


しかしながら、西洋諸国は目下、4つの脅威に直面している。


第一に、人口減少。

第二に、西洋を根底から変えるような、異なる人種・文化の大量移民<。

第三に、西洋の伝統・宗教・道徳に根深い憎悪を抱く反西洋文化の台頭―― すでにそのせいで西洋は分裂しはじめている。

第四に、世界国家樹立に向けての国家解体と政府エリートの背信行為。


これぐらいの危機をはねつける地力はあるのに、いかんせん西洋は独自の文化を死守しようとの気概に欠ける。

元トロッキストの戦略家ジェイムズ・バーナムが 3分の1 世紀前にこう書いている ――


いったいどうしたことか、西洋のこの尋常ならぬ急速な退廃ぶりは。

なかでも特に深刻なのが、指導者層の自己の能力と西洋文明の独自性に対する自信喪失、それに伴う西洋人の生き残ろうとする意志の薄弱さ。

思うにその原因は、宗教の衰退と行き過ぎた栄耀栄華、そして束の間の現世に対する疲労倦怠ではなかろうか。


旧来の西洋を守るために闘う―― これが新たな左右の境界、つまり保守派の新定義となる。

これこそが 21 世紀の大義、われら保守派残党の実践すべき義務である。


文化・国家保存の戦略を練るにあたり、まずは戦力分析が必要だ。

国内においては文化制度はもとより主要法人組織までがほぼ敵の配下にある。

さらにグローバリズムが愛国主義のアンチテーゼであることからして、多国籍企業は当然、敵方だ。

順応性抜群、道徳心ゼロでルーツのない他国籍企業はいかなるシステムの下でも機能する。

効率を第一に掲げ、従業員や国家に対する忠誠心は微塵もない。

株価とストックオプションが存在理由なので利益追求のためにはいかなる犠牲も厭わない。

グローバリズムと純然たる保守主義はカインとアベルだ。

しかし前者の急成長はもはや否定できない。

GDP で判断するなら世界の上位百傑のうち企業が 52、国家は 48である。


文化戦争において討伐されるべきは民主党だが、共和党は戦意を喪失している。

戦いの火蓋が切って落とされる前に一人残らず陣地から逃げ出しそうな気配だ。

これではとてもかなうまい。


革命成功に数世代を要したということは、革命打倒にも数世代かかる。

最大の激戦地は政治ではなく倫理・英知・精神の地である。

なぜなら相手は単なる政党ではない、敵対宗教だから。

そして戦況を左右するのは議会よりも学校、メディア、最高裁。

なぜなら戦利品は若者の魂だから。

「あんたの子供を使って目に物見せてやる」と喚いた詩人アレン・ギンズバーグの台詞は無意識のうちにアドルフ・ヒトラーをなぞっている―― 抵抗分子がいてもかまわない。

子供たちはすでにこっちに寝返っている。


勝つためには正義を守る心意気のみならず、失われしものを奪還する攻撃性が必要だ。

権利の保護と自由獲得のため建国の父たちも反乱軍となった。

われらも反旗を翻さねば。


「革命軍の書いた脚本に沿って、のちの為政者は芝居を演ずる」とのジャン=フランソワ・ルヴェルの指摘はこの革命にも当てはまる―― 文化を支配した勢力が脚本を練り上げ、為政者は脚本どおりに役を演じる。


文化的基盤のない体制は長続きしない。

東欧を席巻したスターリン体制は文化に根ざしたものではなかった。

ロシア戦争の脅威とともに体制も消え去った。

共和党はレーガン時代にしっかり防衛していたモラルの地を、文化が敵の手に落ちたことを理由にあきらめている。

確かにそれが正解かもしれない。

ほとんど勝ち目はないわけだから。

こうなったら保守派は同盟軍を募らねば。

何もリベラルがみなわれらが文明の捕囚(バビロン)を見たいわけではあるまい。

戦闘態勢に入った保守派も少なからずいる。


冷戦に続くこの闘争は消耗戦となろう。

生きて約束の地を見ることはできまいが、最後には勝つと断言できる。

われわれのほうが優れているのだ、地に堕ちた真理も必ずや再起する。



目 次
(hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2016-08-15 )

日本版まえがき
序として
第一章 西洋の遺言
第二章 子供たちはどこへ消えた?
第三章 改革要項
第四章 セラピー大国はこうして生まれた
第五章 大量移民が西洋屋敷に住む日
第六章 国土回復運動(レコンキスタ)
第七章 新たな歴史を書き込め
第八章 非キリスト教化されるアメリカ
第九章 怯える多数派
第十章 分断された国家
著者あとがき
監訳者解説


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