◆ 世界各国の政治指導者と渡り合える日本の政治家は、安倍首相を含めて3、4名しかいないという事実 [ ◆ 日本を取り戻す]
【正論】
安倍内閣「失速」はもったいない
外交を考えれば、
簡単に取っ替え引っ替えできる存在ではない
東洋学園大学教授・櫻田淳
2017.07.24
(www.sankei.com/column/news/170724/clm1707240007-n1.html )
櫻田 淳・東洋学園大学教授
今月上旬に報道各社が実施した世論調査の結果は
軒並み、安倍晋三内閣の「失速」を示している。
東京都議会議員選挙における自民党大敗の流れを受けた調査である故に、
安倍内閣・自民党に険しい結果が出た事実は、それ自体としては驚くに値しまい。
ただし、たとえば
「時事通信」調査で30%を割り込むに至った内閣支持率の下落は、
「安倍1強」の言葉で語られた日本政治の風景の変化を
世に印象付ける。
≪「終わりの始まり」は正しいか≫
安倍内閣の行方に関する注目点は、
次回の調査で、
この下落トレンドが加速しているか、あるいは止まっているかである。
安倍内閣の「終わりの始まり」を指摘する声が聞かれるけれども、
その指摘は正しいのか。
とはいえ、安倍内閣の政権基盤における動揺を前にして、
問われなければならないことが一つある。
それは、
「安倍内閣の対外政策展開は、
どのように評価されているのか」
ということである。
筆者が下す内閣評価の基準は、
◍ 第1が「外交・安全保障政策を切り回せるか」であり、
◍ 第2が「経済を回せるか」である。
現実主義系国際政治学派の開祖であるハンス・J・モーゲンソーによれば、
一つの国家の「国力」を成す要素の中には、
◍ 地理、天然資源、工業力、軍備、人口といったものと並んで、
◍ 外交の質や政府の質が含まれる。
人口や工業力は
日本の「国力」を担保する要素としては既に頭打ちである以上、
外交の質や政府の質を高めることが、
日本の「国力」の減衰を抑える一つの方策になる。
この点、安倍内閣の過去4年半の対外政策は、
つつがなく展開されてきたというのが素直な評価であろう。
まずバラク・H・オバマ政権期、「広島・真珠湾の和解」を成就させ、
安全保障法制策定という裏付けを得た対米政策展開は、
政治学者・五百旗頭真氏が
「とりわけ大きな業績は、対米関係の高水準化である」と評した
小泉純一郎内閣下の対米政策展開を
はるかに凌駕(りょうが)していよう。
それは、ドナルド・J・トランプ政権期に入った後も
対米関係の「安定」を担保する下敷きになっているのである。
≪国際秩序の護持こそ成果だ≫
次に保護主義とポピュリズムの機運が拡散する国際潮流の中で、
自由や寛容、開放性を旨とするリベラルな国際秩序の守護者として、
安倍首相には
アンゲラ・メルケル独首相と並んで
期待する声があることは確認するに値しよう。
米国が脱退したとはいえ
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)署名を果たし、
先刻も日本・欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の
大筋合意にこぎ着けたことは、
それ自体がリベラルな国際秩序を護持し
日本の繁栄を保っていく上で重大な成果だった。
こういう成果の一つ一つを評価しないのは、
安倍内閣の政権運営総体の評価として
決して公正ではない。
故に、特に対外政策を大過なく展開させてきた内閣が
「森友・加計」学園のような内治案件で失速するのは、
いかにも「もったいない」という評価になるであろう。
安倍内閣の執政に「飽き」が感じられ始めているという観測があるけれども、
内閣発足後4年半という時点は、
米国大統領の任期でいえば「2期目が始まったばかり」という時点である。
しかも、北朝鮮の
大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の「成功」が語られ、
北朝鮮の脅威が「新たなステージ」に入った国際環境の下、
特に
習近平・中国国家主席や
ウラジーミル・プーチン露大統領のような
各国政治指導者と渡り合える日本の政治家は、
おそらく安倍首相を含めて
3、4名しかいないという事実は、
冷静に確認されるべきである。
≪戦後日本の“分水嶺”にある≫
世の人々は、政治家を
「簡単に取っ替え引っ替えできる」存在であると考えないのが
賢明であろう。
日本の対外「影響力」を支えることができる外政家であれば、
それはなおさらのことである。
吉田茂は折に触れて、
ウッドロウ・ウィルソン元米大統領の外交顧問を務めた
エドワード・M・ハウスから聞いた
「ディプロマチック・センス(外交感覚)のない国民は、
必ず凋落(ちょうらく)する」
という言葉を紹介した。
今秋、吉田が鬼籍に入って、ちょうど半世紀の節目が来る。
この過去半世紀の歳月の中で、
日本の一般国民は
果たして、どこまで吉田が説いた「外交感覚」を
適切に身に付けることができたのであろうか。
民主主義体制下、
外交に直接に携わることのない一般国民の「外交感覚」とは、
おそらく政治指導層の対外政策展開を正当に評価し、
対外「影響力」を支える外政家を意識的に輩出させようという
姿勢に表れる。
前に触れたように、安倍内閣の失速に際して、
「もったいない」という感覚を持てるかどうかは、
その「外交感覚」の如何を占うものになるのであろう。
今は、戦後日本の「中興」が成るか、あるいは「凋落」に入るかの
“分水嶺(れい)” の時節かもしれない。
(東洋学園大学教授・櫻田淳 さくらだじゅん)
(www.sankei.com/world/photos/170527/wor1705270028-p1.html )
先進国首脳会議(G7)初日の討議に臨む各国首脳。
(奥右から反時計回りに)
安倍首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのジェンティローニ首相、トランプ米大統領、ドイツのメルケル首相、カナダのトルドー首相、EUのユンケル欧州委員長、EUのトゥスク大統領、メイ英首相=2017年05月26日、イタリア南部シチリア島タオルミナ(共同)
【G7】事実上の議長国は日本
安倍晋三首相「EUとトランプ氏が正面衝突しないように調整する」
2017.05.26
(www.sankei.com/politics/news/170526/plt1705260060-n1.html )
G7首脳会議が行われたイタリア南部シチリア島タオルミナで、
写真撮影に臨むトランプ米大統領ら各国首脳(ロイター)
安倍内閣「失速」はもったいない
外交を考えれば、
簡単に取っ替え引っ替えできる存在ではない
東洋学園大学教授・櫻田淳
2017.07.24
(www.sankei.com/column/news/170724/clm1707240007-n1.html )
櫻田 淳・東洋学園大学教授
今月上旬に報道各社が実施した世論調査の結果は
軒並み、安倍晋三内閣の「失速」を示している。
東京都議会議員選挙における自民党大敗の流れを受けた調査である故に、
安倍内閣・自民党に険しい結果が出た事実は、それ自体としては驚くに値しまい。
ただし、たとえば
「時事通信」調査で30%を割り込むに至った内閣支持率の下落は、
「安倍1強」の言葉で語られた日本政治の風景の変化を
世に印象付ける。
≪「終わりの始まり」は正しいか≫
安倍内閣の行方に関する注目点は、
次回の調査で、
この下落トレンドが加速しているか、あるいは止まっているかである。
安倍内閣の「終わりの始まり」を指摘する声が聞かれるけれども、
その指摘は正しいのか。
とはいえ、安倍内閣の政権基盤における動揺を前にして、
問われなければならないことが一つある。
それは、
「安倍内閣の対外政策展開は、
どのように評価されているのか」
ということである。
筆者が下す内閣評価の基準は、
◍ 第1が「外交・安全保障政策を切り回せるか」であり、
◍ 第2が「経済を回せるか」である。
現実主義系国際政治学派の開祖であるハンス・J・モーゲンソーによれば、
一つの国家の「国力」を成す要素の中には、
◍ 地理、天然資源、工業力、軍備、人口といったものと並んで、
◍ 外交の質や政府の質が含まれる。
人口や工業力は
日本の「国力」を担保する要素としては既に頭打ちである以上、
外交の質や政府の質を高めることが、
日本の「国力」の減衰を抑える一つの方策になる。
この点、安倍内閣の過去4年半の対外政策は、
つつがなく展開されてきたというのが素直な評価であろう。
まずバラク・H・オバマ政権期、「広島・真珠湾の和解」を成就させ、
安全保障法制策定という裏付けを得た対米政策展開は、
政治学者・五百旗頭真氏が
「とりわけ大きな業績は、対米関係の高水準化である」と評した
小泉純一郎内閣下の対米政策展開を
はるかに凌駕(りょうが)していよう。
それは、ドナルド・J・トランプ政権期に入った後も
対米関係の「安定」を担保する下敷きになっているのである。
≪国際秩序の護持こそ成果だ≫
次に保護主義とポピュリズムの機運が拡散する国際潮流の中で、
自由や寛容、開放性を旨とするリベラルな国際秩序の守護者として、
安倍首相には
アンゲラ・メルケル独首相と並んで
期待する声があることは確認するに値しよう。
米国が脱退したとはいえ
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)署名を果たし、
先刻も日本・欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の
大筋合意にこぎ着けたことは、
それ自体がリベラルな国際秩序を護持し
日本の繁栄を保っていく上で重大な成果だった。
こういう成果の一つ一つを評価しないのは、
安倍内閣の政権運営総体の評価として
決して公正ではない。
故に、特に対外政策を大過なく展開させてきた内閣が
「森友・加計」学園のような内治案件で失速するのは、
いかにも「もったいない」という評価になるであろう。
安倍内閣の執政に「飽き」が感じられ始めているという観測があるけれども、
内閣発足後4年半という時点は、
米国大統領の任期でいえば「2期目が始まったばかり」という時点である。
しかも、北朝鮮の
大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の「成功」が語られ、
北朝鮮の脅威が「新たなステージ」に入った国際環境の下、
特に
習近平・中国国家主席や
ウラジーミル・プーチン露大統領のような
各国政治指導者と渡り合える日本の政治家は、
おそらく安倍首相を含めて
3、4名しかいないという事実は、
冷静に確認されるべきである。
≪戦後日本の“分水嶺”にある≫
世の人々は、政治家を
「簡単に取っ替え引っ替えできる」存在であると考えないのが
賢明であろう。
日本の対外「影響力」を支えることができる外政家であれば、
それはなおさらのことである。
吉田茂は折に触れて、
ウッドロウ・ウィルソン元米大統領の外交顧問を務めた
エドワード・M・ハウスから聞いた
「ディプロマチック・センス(外交感覚)のない国民は、
必ず凋落(ちょうらく)する」
という言葉を紹介した。
今秋、吉田が鬼籍に入って、ちょうど半世紀の節目が来る。
この過去半世紀の歳月の中で、
日本の一般国民は
果たして、どこまで吉田が説いた「外交感覚」を
適切に身に付けることができたのであろうか。
民主主義体制下、
外交に直接に携わることのない一般国民の「外交感覚」とは、
おそらく政治指導層の対外政策展開を正当に評価し、
対外「影響力」を支える外政家を意識的に輩出させようという
姿勢に表れる。
前に触れたように、安倍内閣の失速に際して、
「もったいない」という感覚を持てるかどうかは、
その「外交感覚」の如何を占うものになるのであろう。
今は、戦後日本の「中興」が成るか、あるいは「凋落」に入るかの
“分水嶺(れい)” の時節かもしれない。
(東洋学園大学教授・櫻田淳 さくらだじゅん)
(www.sankei.com/world/photos/170527/wor1705270028-p1.html )
先進国首脳会議(G7)初日の討議に臨む各国首脳。
(奥右から反時計回りに)
安倍首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのジェンティローニ首相、トランプ米大統領、ドイツのメルケル首相、カナダのトルドー首相、EUのユンケル欧州委員長、EUのトゥスク大統領、メイ英首相=2017年05月26日、イタリア南部シチリア島タオルミナ(共同)
【G7】事実上の議長国は日本
安倍晋三首相「EUとトランプ氏が正面衝突しないように調整する」
2017.05.26
(www.sankei.com/politics/news/170526/plt1705260060-n1.html )
G7首脳会議が行われたイタリア南部シチリア島タオルミナで、
写真撮影に臨むトランプ米大統領ら各国首脳(ロイター)