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◆ 第1章 (2) 極限の身体 [  ❒ 新しい神の国(古田博司著)]


GEPE ~ I Am Coming  (2012)



古田博司著新しい神の国

第1章 多神教的世界観の勧め


2. 極限の身体


そこで精神衛生上、昼はお目当ての文献調査以外では、家で本居宣長の『古事記伝』を読むか、街をただただ彷徨(さまよ)っていたのだが、見れば見るほどハワイにはさまざまな身体がある。

思わずみとれてしまうほど美しい身体があるかと思えば、いろいろな種族の血が下手に混じり合い、ピカソの絵画的状態を呈している顔面や身体もある。


水着で歩ける土地柄であるから、身体がそのまま露わになる。

身体加工も盛んだ。

背中前面に、あのイタリア地図の長靴を背負った人とか、惑星と勘違いしたものか、腕に漢字で「月火水木金土日」と彫り上げた白人がいるのには驚愕した。

刺青屋(しせいや)も大繁盛で、「Queen of pain(痛みの女王)」などという見るからに恐怖の看板が、麗々しく掲げられていたりする。


少し肌寒い、雨の瀟々(しょうしょう)と降る日にワイキキの浜辺に出てみると、信じられないほど美しいカップルが、秘かに愛をはぐくむ姿に遭遇することがある。

黒檀のような肌の黒人男性と妖精と見紛うばかりの白人女性の、ふだんは人目を憚(はばか)る恋人たちがいる。

人種差別はハワイでも甚だしいものだが、雪のような女が熾火(おきび)のそばで溶けるがごとく、その姿は一途に憐れで美しい。


かと思えば、一年中気候が温暖なため、本土からの湯冶客も多い。

日本の湯冶場のようなもので、ワイキキの海が温泉だと思えば分かりやすいだろう。

怪我人や障害のある人、あるいは肥満で動きづらい人などで街が溢れている。

たいていモーター稼働の車椅子に乗っていて、背もたれに掲げられた星条旗をなびかせ、元気いっぱい突進してくる。


日本では人々が、他者の眼差しを気にして、横並びの相互参照でセーブをするものだから、極限の身体というものには滅多にお目にかからない。

ところが、ハワイでは、歩いたり走ったり泳いだりしている身体は、神さまの目しか気にしていないので、だいたい極限のイデアの身体である。

美しい体も、醜い身体も到底この世のものとは思われない。


かわりに、法の網の目はワイキキ海岸全体をすっぽりと包みこんでいる。

海岸での飲食や飲酒はけっして許されない。

日本だったら、イカ焼きにトウモロコシ、演歌が流れてしまうことだろう。

警官はたえず浜を見張っており、不審者はあっという間に連行される。

また、危険物を取り除くため、民間業者が金属探知機を使って浜も海もくまなく行き来している。


プロテスタントの国なので、当然ナンパなどという不届きな行為をする者もいない。

神の目は法という形で形而下に行使され、極限の身体が形而上界を彷彿とさせる。

このようなハワイの身体を日々見ていると、一神教の人々の身体観は自ずと、われわれと異なることにはたと気づくのである。




新しい神の国 ☆ もくじ
(https://hawkmoon269.blog.ss-blog.jp/2019-11-11-1 )

第1章 多神教的世界観の勧め

1.ホッブズ・ワールドのロック・ソサエティー 
   (https://hawkmoon269.blog.ss-blog.jp/2019-11-11-2 )
2.極限の身体 
   (―)
3.無限増殖する偶像なき身体 
   (hawkmoon269.blog.ss-blog.jp/2019-11-11-4 )
4.悲しみの島ハワイ 
   (hawkmoon269.blog.ss-blog.jp/2019-11-11-5 )
5.偏在する神々の魂 
   (hawkmoon269.blog.ss-blog.jp/2019-11-11-6 )
6.日本の神々の二つの系譜 
   (hawkmoon269.blog.ss-blog.jp/2019-11-11-7 )



文明の衝突
日本は東アジアの一員じゃない


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